本研究で対象とするアカウミガメは、世界中の温帯・亜熱帯域に生息する海棲爬虫類で、国際自然保護連合版レッドリストでは、絶滅危惧II類に位置づけられ、世界的に絶滅が危惧されています。本種を適切に保全するためには、その生態を様々な側面から解明し、脅威となっている要因を探り出すことが重要となります。これに関連して、今、特に注目すべきポイントの一つが、成熟したメスの生残率と産卵地の変更です。
国内の主要なアカウミガメの産卵地では、長年にわたり、研究者や保護団体によって、産卵個体に標識を装着して個体識別する調査が継続されてきました。その結果、数年後に同じ砂浜を訪れて産卵するものは、全体の約3割に過ぎないことや、その一方で、他の産卵地で見つかる例はほとんどないことが明らかになってきました。このことは、産卵後のメスの生残率が著しく低いか、そうでなければ、数年後に再び繁殖するときに、既に標識が脱落してしまっているか、前回とは別の、個体識別調査が行われていない砂浜に産卵地を変更してしまっているかということを意味します。いずれにしても、従来の定説を大きく覆すことになるうえ、本種の保全と生態を考える上で、重要な知見となります。
そこで、本研究では、種子島において、産卵地を夜間踏査し、産卵個体を対象に通常タイプの標識と体内埋め込み型の標識を用いた個体識別調査を実施することで、通常タイプの標識の脱落率、他の産卵地で標識を装着された個体の移入率、および種子島で産卵したメスの回帰率について明らかにします。種子島は、国内で二番目に本種の産卵が多いことが知られているものの、2015年に私たちがこのプログラムを始めるまで、産卵メスの個体識別調査はほとんど行われていませんでした。はたして、他の産卵地で標識を付けられたメスが、種子島で見つかるのでしょうか?