長野県木曽町開田高原は、日本在来馬のひとつである木曽馬の産地として300年以上の歴史をもっています。20世紀中葉にも700頭近い木曽馬が飼われており、馬のための採草地や放牧地として約5,000haの半自然草地が広がっていました。しかしその後、馬の飼養が衰退し、今も残る半自然草地は約5ha、約40頭の木曽馬はその大部分が「木曽馬の里」などでの保存・活用事業によって飼われています。
今も残る半自然草地の一部では、隔年での春の火入れと秋の草刈りによる伝統的な管理が続けられており、草原性の種の多様性が高いことがわかっています。またこうした草地管理の技術のほか、刈草を「ニゴ」と呼ばれる干し草積みにして冬の飼葉にする技術、薬草をはじめとしたさまざまな植物利用の知識など、木曽馬や草地にかかわる豊かな伝統的知識や文化が伝えられています。昨今、このような伝統的な草地管理と木曽馬にかかわる文化を再生し、特色のある地域づくりにつなげる活動が地域で始まりました。
このプログラムは、そのようにして再生のはじまった伝統的管理による半自然草地で行われます。その草地に生息する植物や昆虫などの調査を行うとともに、地域で活動される人々との交流を通じて、農山村の地域づくりや市民参加型の草地再生と調査の手法を確立することを目的にしています。またこのことが、地域の伝統文化と生物多様性との生きたつながり(生物文化多様性)を再生するためのモデルケースへとつながることを目指しています。