プレスリリース「“世界初” 環境DNAビッグデータが生物多様性を見える化! 生き物の天気図 を示すオープンデータ「ANEMONE DB(アネモネデータベース)」の運用開始」

2022.06.02

環境DNA※1を利用した生物多様性観測ネットワーク「ANEMONE※2(アネモネ)」を主催する、東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生と観測活動に参画してきた日本郵船株式会社と同社グループ会社の近海郵船株式会社、南三陸町、特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパンの4者は、環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータ「ANEMONE DB」をオープンデータとして2022年6月2日から運用を開始します。

発表のポイント

  1. 海や川の水から採取した環境DNAを用い、その水域に生息する魚類に関する調査結果を蓄積した環境DNAビッグデータ「ANEMONE DB」をオープンデータとして一般公開(6/2〜)、環境DNA調査に関するビッグデータの構築、およびオープンデータとしての一般公開は世界初※3
  2. 環境DNAのサンプリング範囲の拡大とデータ拡充に向けた活動計画・日本郵船、近海郵船の営業航路上での海水サンプリングを今夏から月1回のペースで実施・アースウォッチ・ジャパンは2022年度:50地点、2023年度:100地点で市民調査を実施
  3. 宮城県南三陸町では温暖化による魚類生態調査で活用。志津川湾での南方性種出現の検知へ
  4. 運営母体として「ANEMONEコンソーシアム」を設立。環境DNAの利活用を幅広く社会啓発
      

  「ANEMONE DB」参照サイト・トップ画面      市民ボランテイアによる調査風景

「ANEMONE DB」運用開始の背景

近年において人間活動による生物多様性の喪失が進む一方で、自然環境を回復基調に乗せようとするネイチャーポジティブ※4の国際的な潮流が拡がっています。しかしながら、自然の現状を把握する生物調査には膨大な労力や費用がかかるなど、捕獲に頼る従来の手法から、幅広い範囲を効率的に調査する手法を確立することが長年の課題でした。
環境DNAは、バケツ一杯の水から存在する生物の種類や分布が分かる革新的な生物調査で、その手法※5は日本で開発されました。ANEMONE DBは、日本で確立された環境DNAによるデータベースで生き物の天気図として幅広い業界での利活用が期待されています。2017年から研究者と市民ボランティア約200名が全国861地点、4,298回に渡り実施してきた環境DNAを用いた魚類調査によるビッグデータとして構築されてきました。
このデータベースは、当初より東北大学大学院生命科学研究科 教授の近藤倫生氏の統括のもとで開発・運用され、充分なデータが蓄積されたことから2022年6月2日からオープンデータとして一般に公開します。
環境DNA調査データを蓄積した専用データベースの構築、およびオープンデータとして一般公開されることは世界初となります。


<環境DNA分析結果 閲覧画面>
DNAが検出された魚種(学名)が表示検出量に応じた大きさで表示される仕様
ANEMONE DB(アネモネ データベース)Web サイト:https://db.anemone.bio/

※1:  環境DNAとは水中や土壌中など環境中に存在する生物由来のDNA(デオキシリボ核酸)を指す。生物はフンや粘液などと一緒に自らのDNAの痕跡を環境中に残す。野外で採取した水や土壌などから生物由来DNAを抽出、分析することでそこに住む生物の種類を知る技術(環境DNA技術)が近年になって大きく発展した。捕獲や直接観察に頼る従来の生物調査法に比べて、調査現場での作業が圧倒的に少ないことから、従来の調査法では容易ではなかった多地点、高頻度での生物調査を実現する画期的な方法として注目されている。
※2:  ANEMONE(All Nippon eDNA Monitoring Network)は環境DNAを利用した生物多様性観測のネットワーク。環境DNAの主要技術を生んだ大型プロジェクト研究「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発(近藤倫生 代表;JST CREST制度による)」において2017年より実施された全国沿岸での環境DNA調査を前身とし、2019年からは東北大学・筑波大学・かずさDNA研究所が中心となって、全国の大学や国立研究所、行政機関、市民ボランティアの協力のもと日本全国の沿岸や河川、湖沼等をカバーする環境DNA調査を実施している。77の観測ステーションでの定期観測に加えて、2020年からは市民ボランティアによる調査も実施され、約200名もの市民が参加して146サイトでの調査を実施。2017年よりこれまでの調査総数は4,298回、検出された魚種は885種類にのぼる。
※3:  近藤教授およびANEMONE関係者の調査による
※4:  生物多様性の毀損を抑止するために自然環境等を増やしていく活動や考え方
※5:  環境DNA調査で用いられるMiFish法(魚類を対象とした網羅的解析法)は日本で開発された。

<「ANEMONE DB代表者コメント>
生態系・生物多様性の劣化は進行し、すぐにでも対処すべき世界共通の課題となりました。我が国は豊かな自然の恵みを受けて発展し文化を育んできました。私たちは、自然に恵まれた一次産業の中心であるこの東北の地に生物多様性情報を集積し、誰もが利用できるように公開し、さらに産官学民が互いに支え合い連携することでこの貴重なデータの自然のための活用を推進していきたいと考えています。私たち人間は、片足を自然に、片足を社会において生存・生活しています。この人間の拠り所である自然と社会が互いの豊かさを支え合うことができる仕組みづくりに貢献していきたいと考えます。

ANEMONEコンソーシアム 代表
東北大学大学院生命科学研究科 教授:近藤 倫生

<アースウォッチ代表者コメント>
アースウォッチは本コンソーシアムの中で、市民ボランティアを募集し、調査のやり方やキットの使い方を伝える役割を担当しています。今回、市民自身が選んだ139の地点において、632種もの魚種が同定(種名を突き止めること)されました。この成果は市民が海洋の生物多様性に関する科学的データを得る上で大きな力となりうることを示しており、SDGsの達成に向けた市民参加の成功例と言えるでしょう。(調査にカカクコム社のご支援を頂きました)

特定非営利活動法人アースウォッチ・ジャパン
理事長:浦辺 徹郎

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