シカゴ発‐
もしも、オスのライオンが最新の科学論文を読んだなら、きっとより暖かい所へ移住したくなるだろう。というのも、暖かいところではそのたてがみが、より一層印象的に映るからだ。とはいっても、気候に順応して、またたてがみが少なくなってしまうのだが!
たてがみの豊かなオスがメスをより惹き付けることは、すでに知られている。今回初めて、全米の動物園にいるライオンの革新的研究が明らかにしたところによれば、低い気温によって百獣の王・ライオンのたてがみが、長く豊かになる、すなわち、交尾対象となる相手により魅力的に映るのだ。
哺乳動物ジャーナル4月号の特集記事になった研究によると、事実、動物園にいるライオンのたてがみの長さと密度は気温に強く影響され、栄養や社会的要素、その個体の経歴、または遺伝による影響よりもまさっている。このジャーナルは、2006年4月13日発売予定。
密度が濃いたてがみは、あたかもスカーフや毛皮の帽子のように、体温の発散を遅らせる。暑い気候の動物園にいるライオンたちは、より少なく、細いたてがみによってその気候に順応している。北の動物園にいるライオンたちは、体温が過度に上昇することがないため、たてがみを減らす必要はない。一方南の動物園では時に体温が上がりすぎることがあり、そのため発毛速度を抑えて、たてがみの密度を比較的うすくしているのだ。
こうしたたてがみの状態の違いは、自然淘汰の結果ではない。それらはむしろ、各地の環境に合わせて変化できる、順応性の証である。
牡鹿の角や孔雀の尾羽根のごとく、ライオンのたてがみも、何よりもまずメスを惹き付け、他のオスの競争相手を威嚇する。しかしそれには代償も伴う。豊かなたてがみは発毛と維持にエネルギーを費やし、獲物に居場所を悟られやすくし、茨の藪を抜けにくくし、寄生虫の温床となり、そして、既に述べたように、体温を保つ。
なぜ寒冷な気候にいるライオンが長く豊かなたてがみを持っているかは、体温調節によって説明できる。寒い環境に住み、豊かなたてがみを持つライオンの方が、暖かい地域のライオンよりも、体温保持にかかるエネルギーは少なくてすむのである。
「大きなたてがみが誰にでも印象的である一方、少ないたてがみだって、熱く乾いた気候においては威圧的でありえる。そこでは熱射病になったときの負担が非常に大きく、ほぼ全てのライオンでたてがみがほとんど無いか全く無い。これはケニアのツァボの例だが、ここではほとんどのライオンにたてがみが無い」とブルース.D.パターソン博士は言う。彼はフィールド博物館のマッカーサー哺乳類専門職員であり、プロジェクト「ツァボのライオン」の主任研究者である。
彼と彼の同僚は、たてがみが無くて評判の悪いツァボのライオンの研究から、たてがみに関する研究を始めることになった。パターソン博士は「ツァボのライオン」(マグロウヒル、2004)の著者で、その中で人食いの話が語られている。19世紀末、2頭のツァボのライオンが鉄道員に襲いかかり、ようやく捕獲され殺されるまでに、ある集計によれば少なくとも135人を食べていた。
この2頭のライオンは1925年からフィールド博物館に展示されており、マイケル・ダグラス、ヴァル・キルマー出演の映画「ゴースト&ダークネス」(パラマウント、1996年)の主題にもなっている。人食いの習性はたくさんの新聞の見出しを賑わせたが、成熟した大人のたてがみを持たないライオンというのもまた、一層興味をそそるものと言える。
広範囲に影響の及ぶ調査
この新しい研究は、アメリカ全域、北はシカゴから南はヒューストンに至る17の動物園で、19頭のライオンにおけるたてがみの違いを調査したものである。パターソン博士はこれらの動物園と、前年の春に訪れた他の動物園で、ライオンを調べ、後の分析と比較のためにたてがみの写真を撮った。
調査チームはたてがみを11の部分に区分けした。喉、前頭部、頸上部、もみ上げ、胸、肩、胸骨、肋骨、腹部、肘、後頭頂部である。パターソン博士が各々のライオンについてこれら各部を全て写真に撮っておき、その後、訓練を受けたボランティアがその高解像度写真を、たてがみの長さ、密度、そして色によってランク分けをした。ライオンの年齢は1.7歳から18歳と幅があったが、長さや密度変化の要因にはならなかった。
研究対象になった動物園は、緯度12度、距離は3000キロ以上にまたがった都市にある。ルイジアナ州アレクサンドリア、イリノイ州コール・バレー、テキサス州ダラス、アイオワ州デモイン、テキサス州ヒューストン、テキサス州ラフキン、テネシー州メンフィス、ルイジアナ州モンロー、ルイジアナ州ニュー・オーリンズ、カリフォルニア州オークランド、イリノイ州ペオリア、カリフォルニア州サクラメント、カンザス州サリナ、ミズーリ州セントルイス、カンザス州トペカ、テキサス州タイラー、カリフォルニア州バレホである。
各地域の平均気温は、1月では-6.6℃〜12.2℃(華氏20度〜54度)、7月では18.3℃〜30.6℃ (華氏65度〜87度)まで開きがあった。寒い1月の気温差は、7月のそれよりも、たてがみの変化とより強い関連性を見せ、暑さより寒さに強く反応することを示唆している。
ライオンのたてがみの長さ、密度、色をランク分けしたボランティアたちは、実際にライオンを観察した経験をもっていた。アースウォッチのボランティアとしてケニアでライオンの調査を手伝ってきた人が大半だったのだ。
アースウォッチは、持続可能な環境に対する理解と必要な行動を促進するため、科学的野外調査と教育に世界の人々を派遣している。その数は毎年、47カ国、130のプロジェクトに及ぶ。「これまでに、20の国から300人のボランティアが訪れ我々のツァボでの研究に貢献してくれた」とパターソン博士は語った。
ライオンの系統図を揺るがす
この研究に基づき、科学者たちはライオンのたてがみが各地の気候によっておそろしく変化するということを知った。従って、分類学者はライオンの系統図について改めて分析を迫られることになるだろう。
長い間、科学者たちがライオンの種や亜種の分類にあたり頼りにしてきたのは、主に彼らの外見であり、特にそのたてがみの長さと密度であった。実際、23の名称が、アフリカに住むライオン(Panthera leo)につけられている。しかしこの調査結果は、この数が多すぎることを示唆し、最新の遺伝的研究もこの考えを裏付けている。
「地域によるたてがみの違いは、ほとんどが気候や他の環境要因、例えば降雨量などが反映されたものと仮定することは、ヒョウ属ライオンの中に明らかな進化論的区分をつくるよりも合理的である」と著者は結論付ける。
もう一つ、この研究結果によって、科学者たちはヨーロッパ氷河期における洞窟のライオンについての調査をやり直させられることになるだろう。氷河期のライオンは明らかにたてがみを持っていないので、それによってライオンの亜種、P.leo spelaea か P.leo atroxに分類されている。しかし新しい知見、寒い気候がたてがみを長く濃くさせるということがわかった今、氷河期の寒冷な生息環境において全くたてがみがなかったこの種は、「別種という分類にして、しっくりくるよう整列させることになるだろう」と著者は締めくくる。
ライオンはかつてほぼ全世界に生息していたが、現在の生息地はアフリカとインドの一部に限られている。野生で生きるのはたったの25,000頭ほどに過ぎず、ほんの25年前の100,000頭以上からここまで減ってきた。ライオンの数が減ったのは、人間が彼らの生息地へ侵入したり、人間と争ったりしたことによるものである。
「この立派なたてがみを持ったライオンは、いつでも我々の文化の大切な象徴となってきました」と語るのは、ニューヨークの州立アルバニー博物館における哺乳類の専門職員で、この研究の共著者のローランド・ケイスである。「寒冷な地方の動物園の野外でも、彼らが生きていかれることを私たちは望んでいます」
当研究のその他の共著者は以下の通り。ナイロビのケニア野生生物サービス、S.M.カシキ、および、アメリカワシントンD.C. 米国国勢調査局、V.M.セバスティアン。
以下の動物園のライオンは、この研究の調査対象となっている。
ルイジアナ州アレクサンドリア、アレクサンドリア動物公園。イリノイ州コール・バレー、ナイアビ動物園。テキサス州ダラス、ダラス動物園。アイオワ州デモイン、ブランク・パーク動物園。テキサス州ヒューストン、ヒューストン動物園。テキサス州ラフキン、エレン・トラウト動物園。テネシー州メンフィス、メンフィス動物園。ルイジアナ州モンロー、ルイジアナ・パーチェイス動物公園。ルイジアナ州ニュー・オーリンズ、フリーポート=マクモラン・オーデュボン生物種生存センター。カリフォルニア州オークランド、オークランド動物園。イリノイ州ペオリア、グレン・オークス動物園。カリフォルニア州サクラメント、サクラメント動物園。カンザス州サリナ、ローリング・ヒルズ動物園。ミズーリ州セントルイス、セントルイス動物公園。カンザス州トペカ、トペカ動物公園。テキサス州タイラー、コールドウェル動物園。カリフォルニア州バレホ、マリンワールド
なお、以下の動物園は、研究には関わったが、そのライオンは最終的な比較分析には含まれていない。
イリノイ州シカゴ、リンカーン・パーク動物公園。テキサス州フォートワース、フォートワース動物公園。ミズーリ州カンザスシティ、カンザスシティ動物園。カリフォルニア州サンフランシスコ、サンフランシスコ動物公園。カンザス州ウィチタ、セジウィック郡動物園。
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